「ビート・キッズ Beat Kids」(風野潮)

家庭環境が縦糸、親友との絆が横糸

「ビート・キッズ Beat Kids」
(風野潮)講談社文庫

「吹奏楽部に入って
大太鼓叩いてくれるよね」。
同級生・望に誘われるがまま
音楽室に向かった英二は、
そこで命令口調の
部長・七生と出会う。
七生の厳しい練習の末、
英二はパーカッションの魅力に
目覚める。
ところが英二の一家は…。

パーカッション担当の部員が
退部したため、その補充要員として
急遽入部した部員が、
素人であるにもかかわらず
その才能を開花させ、
吹奏楽部が見事な演奏を披露する。
という大筋だけを取り出すと、
小説でもドラマでも、
いくつか見つけられそうです。
でも、本作品の場合、
吹奏楽部の活動自体に
焦点は合っていません。
あくまでも英二の周辺で
起こるドラマを描き、
エンターテインメントとして
見事に完成させているのです。

一つは英二の家庭環境です。
人は良いが飲んだくれで
賭け事好きな父親。
家庭を顧みないだらしない人間です。
若くて美人であるものの、
病弱な母親。
英二の妹を身ごもっています。
そのため英二はアルバイトをして
家計を支えようとします。
当然部活動どころではないのです。
妹が生まれたのも束の間、
妹と母親は突然倒れて
入院してしまいます。
英二はどうやって生きていくのか?
それが物語の縦糸となります。

一つは親友となる部長・七生との絆。
吹奏楽部の顧問は素人であるため、
彼が「部長兼指揮者兼
ドラムメジャー」なのです。
英二と同じ
中学2年生であるにもかかわらず
命令口調で部員に接し、
それでいながら部員たちの信頼を
勝ち得ているという強者です。
しかも天才的な打楽器奏者であり、
小学生の時にプロのバンドで
ドラムを叩いたという経歴の持ち主。
そんな強気な外見の裏には、
彼なりの悩みが潜んでいたのです。
それに気付いた英二は、
彼を優しく包み込み、
二人の絆は確かなものとなるのです。
それが物語の横糸となります。

七生が独裁的であるにもかかわらず
吹奏楽部の活動が成立している点や、
中学校の吹奏楽部を
素人顧問が担当している点、
時代錯誤的な
悪役教師が登場している点、
経済的に困窮しているはずなのに
そうした影が見えない点、
英二と妹が14歳も離れている点等々、
現実的に考えると
無理な設定は多々あります。
しかし、そうした点の影響は些細であり、
読み手の物語への没入を
妨げるものではありません。

中学生に薦めたい一冊です。
ぜひ本作品を読んで、
笑って泣いて感動してください。
それにしてもこんな面白い小説が
20年も前に出版されていたなんて。
そして15年も前に続編も出版され、
映画化もされていたなんて。
時代の流れに疎い私には、
こういうことがよくあります。

(2019.11.24)

Paul BrennanによるPixabayからの画像

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